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私は、まだあなたを信じきれていないのかしら。
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魚は鱗を剥がされるとき、こんなふうに痛いのかしら。
獣が皮を剥がれるとき、こんなふうに痛いのかしら。
鳥が羽根を毟られるとき、こんなふうに痛いのかしら。
腐った蜜柑が落ちるとき、こんなふうに痛いのかしら。
いいえ、もっともっと痛いのでしょう。
生まれて剥がれて生まれて剥がれて、まるで子宮の月のよう。
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その日にしか書けないことがあるとして、その日に書かなかったことは、その日の夜明けに逃げてゆく。
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黒猫だから安易に「ジジ」とつけた。
馴れてくれる日が来るなんて思えないほど、用心深く、臆病な痩せた子猫。
しっぽの先が剥げて皮と骨だけになっていた。
今日で黒猫が死んでちょうど一年経つ。
賢くて、なまえを呼ぶときちんと一回だけ返事をした。
抱き上げようとするとするりするりと1メートルずつ先に優しく逃げた。
無理に抱っこをすると「いやいやいやー」と爪を出さずに胸を押し返した。
夜になると真っ黒の瞳。昼には黄色の醒めた瞳。
風が吹くだけで怯えていた。
とても高いかわいい声だった。
目が悪く、牙がかたっぽ抜けていて、ひょろりひょろりと上品に歩いた。
走るときはバンビのように軽やかに走った。
ちいさなまるい黒い手。私はそれに触りたかった。
部屋に入れると出してほしくて一晩中声が枯れるまで鳴いた。
コスモスの畑からやってきて、ちょうどくっきり3年経ったら同じコスモス畑で静かに死んでいた。
死ぬまえの数日間が今まででいちばん元気で、いちばんごはんを食べていたと聞いた。
ジジが幸せだったかなんて、ジジが幸せだったかなんて考えるだけ無駄だった。
ただ私のほうがもらうばかりで、ただただ私が幸せだった。
この一年で変わったことはなんだろう。
ジジがいなくなって灰色の猫はおうちのなかでひとりでおとなしく眠れるようになった。
かたっぽがいないといつだって鳴いていたのに、おおきくなって人間に馴れた。
やんちゃも、やたらめったら知らない人を威嚇するクセも(少し)なおって、無言だったのに家族にはニャーと鳴けるようになった。
猫のニャーは人間への鳴き声だったんだね。
今までジジが人間に挨拶していたから弟分は声を出す必要がなかったんだ。
今はよく鳴くよ。
電話口でも鳴いてくれるよ。
私はその声がとても好きで泣きそうになってしまう。
ありがとう、ただそれだけ。
三人でふきっさらしの真夜中に星を見ていた日々を覚えているよ。
その日にしかできないことがあるとして、その日にしなかったことは、その日の夜明けに逃げていってしまう。
ジジはきっと夜明け前に逝ったのだろう。
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All story 1226 * Start ⇒ 03/03/21 * Writer ⇒ ハルヒ T 6 Y 116 107991