健康と医学全般

記事 : 視覚の回復の為の電子装置が移植される 
07年02月17日(土)


Trials for 'bionic' eye implants
BBC News 2/16

網膜の細胞が損傷する事によって視覚が失われる、「macular degeneration (黄斑変性)」や「retinitis pigmentosa(色素性網膜炎)」といった病気 を持つ人々に対して、映像情報を電気的な信号に変え、網膜につながっている 神経にパルスとして送り込むことにより、一定量の視覚を回復させる装置の 臨床試験で、より進んだ装置の移植手術が行われるそうです。

どのような手法によってそれが可能になるのか、まずBBCの解説図を見てください
   
  1. 眼鏡に設置されたカメラが画像を捉える
  2. 捉えられた画像が信号に変換され携帯型の装置に送られる
  3. 装置で処理された情報が、眼鏡に返送され、目の表面下に移植 された受信装置に無線送信される
  4. 移植された受信装置が、網膜に移植された電極に情報を送る
  5. 電極が脳に情報を送るために網膜を刺激する
つまり、デジタルカメラでの画像撮影に使われているものと同様のプロセス、 「光->電気信号」変換をデジタル眼鏡と補助装置によって行い、得られた電気 的な信号を脳に送っているわけです。

以前にお伝えした記事で述べられていたように、既にこの装置は被験者達に 移植されていて、一番長い人では5年という歳月が経過しています。「わずか 16の点によって見る世界」、というものはどんな世界なのだろう、とその時に 書きましたが、この記事では移植後に被験者の脳の方が情報入力に適応して、 より周辺の状況が把握しやすくなっているようだ、という事も窺えます。

脳にとって、周辺環境を把握するための素材は、あくまで神経を伝わってくる 電気的なパルスでしかありません。それが生体から伝えられたのものではなく、 電子的な装置によって捕獲されたものであっても、もしかしたらそれを意味の あるものに解釈する力を、脳は持っているかもしれません。実際、聴覚補助の為 のデバイスの移植では、そのような事実が見えてきたりしてもいます。

今回視覚の確保の為に移植される新しい装置は、1平方ミリメートル程度にまで 大きさが縮小され(第一世代の1/4)、そこに60の電極が備えられます。初期 装置に備えられたのが16電極でしたので、より高い解像度が提供される事にな るわけです。そして、もしその臨床試験が成功すれば、3万ドル程度で同じ物が 使えるようになるかもしれない、と記事は伝えています。

もちろん、新しい装置に関してはこれから臨床試験が始まる段階ですし、それ が効果を発揮する疾患は限定されています。少し前に、この装置では視野の 回復は見込めないと思われるStevie・Wonder氏が、装置の被験者になる事を 願ってMark Humayun教授に接触を図ろうとしている、という事を伝える記事をご紹介しましたが、60のドットで見る世界 であるとしても、視野を取り戻せる事を望む人は多いのだろうと思います。


長い長い猫足
このサイトでは、半導体デバイスの微細化の進展、ムーアの法則の現在状況に ついて、時折取りあげています。それは、障碍を乗り越える為の補助手段とし ての「コンピューティング(計算)能力」というものに、私自身が期待を持って いるからでもあります。

例えば、この記事では改めて触れられていませんが、同じ面積の半導体により 多くのトランジスタというものを詰め込めるようになった事が、今回のような 補助手段の進歩をもたらしているのです。

それは、「ムーアの法則(半導体の世界では同じ面積に詰め込めるトランジ スタの数は2年ごとに倍増する)」というものなのですが、具体的には同じ大き の装置に、2年たつと2倍のエンジンが備わる、もしくは同じ能力を持つ装置が 半分の大きさで作れるようになるというような話になります。

半導体・トランジスタというと判りにくいかもしれませんが、身近に見られる デジタルカメラが、より解像度の高い写真を同じ時間により多くの枚数撮影 出来るようになってゆくのと同じ事が、今回の記事の中に出てくる装置にも 起きているわけです。

トランジスタの増加は、コンピューターの力を増加させます。2年で2倍 …  さほど大きなものには思えないかも知れませんが、それは10年後には32倍、12年 で64倍、14年後には128倍になるという凄まじいものなのです。例えば、かつて アポロという宇宙船によってNASAが月に人間を送り込んだ際に用いられた支援の 為のコンピューターの計算能力は、今あなたが使っている机の上のパソコンより も、小さいかもしれないのです。

もちろん、その同じ事実からは、「何かをする」為には、計算能力・計算速度 だけが重要なのでは無い、という事も判ります。そこに有る装置の力だけでは ダメなのです。F1のマシンに素人が乗っても、プロのレーサーと同様の能力を 引き出す事は不可能だ、というのと同じ意味で(でも逆に、車という乗り物が 出せる速度が速くなければ実現は不可能だ、というレベルの事も実際にはとて も多いのです)

また、人間の体内に装置を埋めこむ為には、様々な配慮が必用とされます。以前 にとりあげた、移植用装置のダイヤモンド・コーティングなどといった技術も、 長期的に移植されたデバイスを安定的に使用する為には欠かせないものだったり します。また、技術が存在するからそれを使う、という行動が常に正しいとも 言えないのが、新たに登場した技術に関しては難しい所です。

でも、沢山の人達に情報を伝える為に、「木の板に文字を彫りつけて墨をつけて 複写し、それを配っていた」瓦版の時代から、「電子的な情報として世界中の無 限大の人に一瞬でそれを送れるようになった」現代まで、凄まじい速さで変化が 起きている事を認識する事は、自分がしがみついている時代遅れなものを、より 有用な物に更新する為にも必用です。

そういった意味でも、変わる物と変わらない物とを見極める事、必用な物を手に 入れる為の「手段」を身につけさせる事、自分が持っている時代遅れの思想・ 技術・主張に気づかずに周囲に害を与えている(善意による事も有る)人間を 見極めて迂回する事、そういった事を子供達に身につけさせる事は、かつてより もより大事になってきているのだと思います。

そこに有る変化を読める状態に自分を保ってゆけるのかどうか、我が身を振り 返って心細くもなる、とても変化の激しい時代です。

bionic eye」、「Argus II」、「電子機器移植による視覚の回復

「新型インフルエンザ」は、非常に事態の展開が早いです。
まず記事の日付を確かめ、必ず表紙で最新情報を見てくださいね。









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