演劇界広しといえども、これだけの変化球を投げる作家はいない
だろう。もちろん直球も投げるわけですけど。球種が多いってこ
と。手を変え品を変え様々な作品を発表するスタイルは、時には
賛否両論が巻き起こる。そして、演出家としてのセンスが相乗効
果を巻き起こした末に生まれた作品。初日です。
地球上のどこか架空の街。そこに39歳の兄と35歳の弟が一軒家で
暮らしていた。弟に対して何か隠し事があるような兄。そんなこ
とは露知らず、兄弟はクリスマスパーティの準備を進める。弟が
愛する人に告白する段取りも計画して。ところが、準備した料理
には、彼女のアレルギーである貝が入っていたことから、彼女は
倒れる羽目になり怒らせてしまう。翌日、弟の検診にやって来る
兄の友人。そして、兄がずいぶん昔に募集していた下宿人募集の
雑誌を読んで、若い女性がやって来る。さらに、昨日怒らせてし
まった、弟の愛する人。それから、ガスの修理に来たという男。
彼らに待ち受ける運命は…。
今回のは、架空の街シリーズの作品とでも言いましょうか。ドラ
マ性の高い作品です。ちょっとファンタジー要素もあるのかな。
ギャグも抑え目のシリアスな作品。
上演時間は、若干押して終演が21時50分で休憩なし。そんな長丁
場ですが、全く集中力が落ちない。やっぱりケラさんの演出力は
凄すぎです。もちろん、役者さんの力量も大きいとも思います。
お尻や腰は痛くなるけど。
登場人物は、わずか6人。紀伊國屋ホールで少人数のケラ作品と
いえば、フローズン・ビーチですが、それに匹敵するくらいに濃
密な空気が漂う作品でした。簡単に言うと傑作。いや、そんな言
葉だけで終わらせるつもりはないけど。
でっかい1人とちっちゃい5人が織り成す物語。傷つけ、傷つけ
られ。愛し、愛され。そして、人々は沢山のものを失った。何か
が生まれるということは、何かを失うということよりも、ずっと
希少なことなのかもしれない。この作品が生まれたのも、簡単な
ことではなかっただろう。
無邪気さが狂おしいほど愛しい、みのすけ。弟を愛し、弟のため
ならなんでも出来そうな、大倉。ちょっと間が抜けているけれど、
息子を愛している、三宅。愛に迷うも、愛を信じる、犬山。犠牲
という言葉が当てはまりそうな、振り回される、松永。そして、
役柄同様に外部からの使者、八嶋。みんな、カッコイイ。
島次郎の美術が独特な世界観を表現しているし、山本華漸の衣装
は、意外にもオーソドックスだが、人物の愛らしさを増している。
そして、照明に映像に…。
冒頭の兄弟二人だけのシーンから、じわじわと張られる伏線。少
しずつ明かされる謎。関係性。どんでん返しのような派手さのあ
るミステリ性ではないけれども、じわじわと迫り来る何かを感じ
る作品。そして、最後の最後に残された。あっと驚く仕掛け。
作家として演出家として、師走の時期にとんでもない作品を私に
プレゼントしてくれた、その人はケラリーノ・サンドロヴィッチ。
本日の公演は「ナイロン100℃・消失」でした。
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